2026.8.22
#10 料理人だった父の背中 - 後編 -
Fierté | オーナーシェフ 山本 悠太


第 4 章 鎌倉で始まった、Fierté
─ これまでさまざまな場所で経験を積まれてきましたが、その後どのようにFiertéへとつながっていったのでしょうか。
現在のFiertéの建物をつくったオーナーが、レストランを始めるにあたってシェフを探していたんです。その時に、知り合いの先輩から声をかけていただきました。その話を聞いて、すごく興味を持ちました。ただ、それまでオーナーとはお会いしたことがなかったので、まずは僕がどんな料理をつくるのか、ちゃんと理解してもらいたいと思いました。
─ そこから、どのように話が進んでいったのでしょうか。
一度僕の料理を食べてもらう機会をつくっていただきました。やっぱり、自分の料理をちゃんと理解してもらった上でお願いしてもらえた方が、自分としても安心できます。実際に料理をつくって食べてもらい、そこから話が進んでいきました。なので、最初から自分で鎌倉に物件を探していたというより、人とのご縁からこの場所につながっていったという感じですね。
─ そうしてFiertéが始まり、現在は山本シェフ自身がオーナーとしてお店を営まれているのですね。
そうです。最初はオーナーから声をかけていただき、シェフとしてFiertéを始めましたが、ゆくゆくは自分がオーナーになるという話しのもとオープンしました。そこからこの場所で料理を続け、現 在は自分がオーナーとして店を営んでいます。ですので、最初から料理だけではなく、お店の空間作りまでも携わらせていただきました。
─ 実際に鎌倉でお店を営む中で、この街にはどのような魅力を感じていますか。
鎌倉って、すごくちょうどいい街だと思うんです。東京からも1時間くらいで来られますし、何よりレストランが多いですよね。観光のお客様をターゲットにしているお店もあれば、地元の方が通うお店や、そのレストランを目的に全国から訪れるお客様もいる。いろいろな人が来る中で、それぞれのお店にしっかりと目的があって、うまく調和している街だと思います。海もあって、山もある。いろいろな食材も入ってきますし、東京ほどせかせかしていない。そういう環境も、自分には合っているのかなと思います。


第 5 章 一口で、記憶に残る料理
─ Fiertéの料理をつくる上で、大切にしていることを教えてください。
料理をつくる時は、一皿の中にある一つひとつに、ちゃんと意味を持たせるようにしています。例えば、なぜここにソースがあるのか、なぜこの野菜が必要なのか。見た目を華やかにするためだけに何かを置くのではなく、食べた時にどう感じるのかまで考えて組み立てています。これはレカンにいた時のシェフから学んだことでもあります。「意味のない野菜はいらない。なぜここにピューレがあるのか、なぜここにソースがあるのか、食べることを考えたら分かるよね」という考え方だったので、今でもすごく意識しています。
─ 季節の食材とは、どのように向き合っていますか。
季節感はもちろん大切にしています。ただ、今は温暖化などで状況がどんどん変わっていて、以前ならこの時期に獲れていた魚が、今は状態が良くないということもあります。そういう時は、魚屋さんから「今だったらこっちの方がいいよ」と提案してもらうこともあります。「この季節だから絶対にこの食材」と決めるのではなく、その時に本当に良いもの、美味しいものを使う。季節感を取り入れながらも、食材を見て臨機応変に考えるようにしています。
─ 山本シェフにとって、「素晴らしい料理」とはどのような料理でしょうか。
一口食べた瞬間に、「美味しい」と感じられる料理ですね。コース料理を前にすると、「理解しなきゃ」「考えながら食べなきゃ」と思ってしまう方も多いと思うんです。でも僕は、口にした瞬間に「美味しい!」と思える料理をつくりたいですね。一口の中に、さまざまな食感や旨味があって、それが一度に伝わってくる。そういう料理は、強く記憶に残ると思っています。時間が経ってからも、「あの時の、あの料理」と思い出してもらえるような、一口で心に残る料理をつくっていきたいですね。


第 6 章 山本シェフが、描く未来
─ これから、料理人としてどのようなことに挑戦していきたいですか。
まず、あと10年くらいはフランス料理を突っ走りたいと思っています。ただ、その先のことも少しずつ考えるようになっていますね。今、若い世代を中心に、フランス料理を食べに行く機会そのものが少なくなっていると感じています。連れて行って もらったことがないから、どう頼めばいいのかも分からない。寿司や焼肉ならなんとなくシステムが分かるけれど、フランス料理となると分からないという方もいる。実際にお店をやっていても、「フランス料理を食べに行きたい」と思う方が少しずつ減っていることは感じています。
─ そうした変化を感じる中で、その先にはどのような未来を思い描いていますか。
10年後、15年後、自分が今と同じスタイルでレストランを続けているのかということは考えますね。Fiertéは今、中学生以下のお客様にはご遠慮いただいています。ですが、最終的には赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまで、みんなが一つの空間に集まって食事を楽しめるような、そんな場所もつくりたいと思っています。今とはまったく違う形になるかもしれません。例えば、もっとフランクに、美味しいものをみんなで食べられるようなお店。そういう場所も、将来的にはやってみたいですね。
─ 料理をすること自体は、これからも変わらないのでしょうか。
それは変わらないと思います。高校まではずっとサッカーをしていましたけど、それからは本当に料理しかしてこなかったので。たぶん、料理しかできないんですよね。だから形は変わるかもしれませんが、ずっと料理には携わっていくと思います。
─ 最後に、これからの鎌倉でやってみたいことはありますか。
鎌倉にはいろいろなジャンルのレストランがありますし、それぞれの料理人が違う経験をして、違う料理をつくっています。だから、一つのお店だけではなく、街全体で一緒に盛り上がれるようなことができたら面白いと思っています。例えば、いくつかのお店を巡って楽しめるようなイベントだったり、料理人同士で何か一緒にできることだったり。それぞれのお店が持っているものを生かしながら、鎌倉の食を一緒に発信していけたらいいですね。

Epilogue
最後に
山本シェフのお話を通して印象的だったのは、フランス料理を深く愛しながらも、その形にとらわれていないことでした。一皿の中では、ソースや野菜の位置にまで意味を持たせ、口に運ぶ瞬間までを考え抜く。一方で、これからの料理人生については、時代や食文化の変化を見つめながら、いつかは子どもからお年寄りまで、誰もが同じ空間で食事を楽しめる場所をつくりたいと語ります。22歳で渡った南フランスで出会った自由な感覚と、銀座レカンで学んだ古典。その両方を大切にしてきた山本シェフだからこそ、守るものと、変えていくもの、そのどちらにも素直に向き合っているように感じました。これからもフランス料理を追求しながら、その先には、まだ決まった形のない新しい食の景色を描いている。「料理しかできないんですよね」と笑いながら語ったその言葉に、これまでの料理人生と、これからも料理とともに生きていく山本シェフの姿が表れているように感じました。

Profile
プロフィール
Fierté オーナーシェフ 山本 悠太 氏
鎌倉・御成町に構えるフレンチレストラン「Fierté 」のオーナーシェフ 山本 悠太氏。料理人である父の影響を受け、料理の道へ。ロイヤルパークホテルで経験を積んだ後、フランスへ渡り、南仏のレストランで研鑽を重ねる。帰国後は銀座L'écrinをはじめ、国内のレストランで腕を磨き、2019年に鎌倉でFiertéをオープン。2021・2023・2025年「食べログ フレンチ EAST 百名店」、2023年から4年連続で「ゴ・エ・ミヨ」に掲載。2025年には「第7回シャンパーニュ コレ賞」で優勝。

