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2026.8.7

#10  フランスか、鎌倉か - 前編 -

La Vallée d’Or | オーナーシェフ 金谷 淳

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Prologue

はじめに

北鎌倉に店を構えるフランス料理店 「La Vallée d’Or(ラヴァレドール)」。フランスで9年間にわたり研鑽を積み、現地ではシェフとしてミシュラン一つ星を獲得。フランスで培った感性と技術から生まれる料理は、一皿一皿が芸術です。 華やかな経歴を持つLa Vallée d’Orオーナーシェフ金谷氏。しかし、その歩みは決して一直線ではありませんでした。高校卒業後はやりたいことが見つからず、一度は別の仕事へ就職。そんな中、一冊の漫画『美味しんぼ』との出会いをきっかけに料理の世界へ飛び込みます。その後、ホテルで10年間基礎を学び、37歳の時に単身でフランスへ渡るという大きな決断をしました。異国の地で技術だけでなく、食文化やレストラン文化にも深く触れ、自らシェフとしてミシュラン一つ星を獲得するまでに成長しました。その経験は、現在のLa Vallée d’Orの料理にも、色濃く残っています。今回のインタビューでは、料理人を志した原点から、フランスでの挑戦、そして北鎌倉でLa Vallée d’Orを営む今の想いについて、お話を伺いました。

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第 1 章 人生を変えた、一冊の漫画

─ 料理人を目指したきっかけを教えてください。

実は、子どもの頃から料理人を目指していたわけではありません。高校を卒業する時もやりたいことが見つからず、周りが次々と就職先を決めていく中で、焦るようにいくつかの会社を受けました。その中で採用されたのが、ファミリーレストランでした。働き始めると、厨房では決められた手順に沿って料理を仕上げていく仕事が中心でした。毎日とても忙しく、体力的にも大変だったのですが、「このまま5年、10年と続けた先に、何が身につくのだろう」と疑問を感じるようになったんです。同じように忙しく、大変な思いをするのであれば、きちんと料理をつくる技術が身につく仕事をしたい。そう考えるようになりました。その時に思い出したのが、父が買ってきてくれて、中学生の頃から読んでいた漫画『美味しんぼ』です。作中に登場する料理の世界に「格好いいな」という印象を抱いていたことが、心のどこかに残っていたんだと思います。それで、「料理人をやってみよう」と決めました。

─ 料理人を目指し、どのような一歩を踏み出されたのでしょうか。

料理人をやってみようと思い、リーガロイヤルホテルに履歴書を送りました。ただ、その時はホテルにどのような料理部門があるのか、詳しく分かっていたわけではありませんでした。日本料理や寿司、鉄板焼き、フランス料理、中華料理など、さまざまな部門がある中で、最初に配属されたのは、カレーやオムライスなどを提供するカジュアルなレストラン。料理の世界に入ったばかりで、何をするのかも分からない状態からのスタートでした。そこで、カレーを一から仕込み、魚や肉を捌くなど、料理人としての仕事を少しずつ身につけていきました。

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第 2 章 フランス料理との出会い

─ フランス料理に魅了されたきっかけを教えてください。

最初に配属されたのはカレーやオムライスなどを提供するカジュアルなレストランでしたが、ホテル自体はフランス料理を中心とする会社でした。シェフや二番手を務めている方々も、フランスで修業をしてきた料理人が多く、仕事の中にフランス料理の要素がたくさん入っていたんです。先輩方から現地での経験を聞く機会もあり、その話がとても面白くて、次第にホテル内のフランス料理店で働きたいと思うようになりました。

─ フランス料理の魅力を、どこに感じていましたか。

先輩方が勉強のために、東京の名店へよく連れて行ってくださったんです。当時は今ほど店の数が多くなかったので、2年ほどで東京の名店と呼ばれる店を一通り回り、「次はどこへ行こう」と悩むほどでした。カレーやオムライス、スパゲッティにも学ぶことはありますが、フランス料理は勉強しても勉強しても、まだ知らないことが出てくる。その懐の深さに惹かれ、「この料理を追求していきたい」と思うようになりました。

─ ホテルを離れた後は、どのような経験をされたのでしょうか。

ホテルには10年間在籍し、その後は父の病気をきっかけに、実家から通える町場のレストランへ移りました。ホテルで料理の技術や知識を身につけていたので、町場のレストランへ移っても、技術面で困ることはほとんどありませんでした。一方で、働き方はホテルとは大きく異なりました。朝早く市場へ行き、自分で食材を仕入れ、そのまま夜まで働く。休みの日にも仕入れへ行くことがあり、食べ歩きや本を読む時間も取れないほど忙しい日々でした。ホテルでは料理の基礎を学び、町場では小さなレストランを動かすための働き方や、厳しい環境で仕事を続ける力を身につけたと思います。

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第 3 章 37歳、フランスへの挑戦

─ フランスへ渡たったきっかけを教えてください。

町場のレストランで働く中で、一緒に働いていたフランス人料理人との出会いが、大きな転機になりました。その方に「フランスへ行きたい」と相談したところ、「紹介できるレストランがあるよ」と声をかけていただいたんです。ただ、当時は37歳だったので、ワーキングホリデーは利用できませんでした。最初に紹介していただいたレストランも、ビザの関係で受け入れてもらうことができませんでした。その後も受け入れてもらえるレストランを探し、ある方から「ロワール地方に、日本人オーナーのミシュラン一つ星レストランがある」と情報をいただき、自らアプローチしました。そして、やっとの思いで働けることが決まり、念願だったフランスへ渡ることができました。

─ フランスでは、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

最初はスーシェフとして働いていました。その後、シェフが辞めることになり、自分がシェフを任されることになったんです。料理をつくるだけではなく、スタッフの管理やレストラン全体を見る立場になり、それまでにはなかった責任を担うようになりました。そしてそのレストランで、シェフとしてミシュラン一つ星を獲得することができました。

─ フランスでの9年間を振り返って、今のLa Vallée d'Orにつながっていると感じることは何ですか。

フランスでは、料理をつくるだけではなく、シェフとしてレストラン全体を任せていただきました。料理のことはもちろんですが、スタッフとの向き合い方や店全体の運営など、それまで経験してこなかったことを数多く学ぶことができました。また、現地では生産者との距離も近く、その土地で育った食材を、その土地の文化の中で料理として表現することを大切にしていました。料理だけを見るのではなく、その背景にある風土や文化まで含めて一皿をつくるという考え方は、フランスでの経験を通して学んだことの一つです。フランスで過ごした9年間は、料理人としてだけではなく、シェフとして、そして一つのレストランをつくる人間として成長させてもらった時間でした。その経験が、今のLa Vallée d'Orの料理や店づくりの土台になっています。

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Highlight

前編のまとめ

お話を伺う中で印象的だったのは、金谷シェフの歩みは『美味しんぼ』との出会いをきっかけに料理人を志し、ホテルでフランス料理に魅了され、その想いに素直に向き合い続けた先で、フランス人料理人との出会いや、多くの方々とのご縁が、本場フランスへの扉を開いていくことです。37歳で異国の地へ渡り、シェフとしてミシュラン一つ星を獲得するまでの歩みは、決して偶然ではなく、自分の心に正直に挑戦を重ね、その時々の出会いを大切にしてきたからこそ築かれたものなのだと感じました。後編では、フランスで培われた料理哲学や、北鎌倉「La Vallée d'Or」で表現したいフランス料理への想い、そして金谷シェフが描くこれからの未来について、お話を伺います。

LUX ESSENCE

La Vallée d’Or

オーナーシェフ 金谷 淳氏インタビュー

#10  フランスか、鎌倉か - 後編 -

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