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2026.8.7

#10  フランスか、鎌倉か - 後編 -

La Vallée d’Or | オーナーシェフ 金谷 淳

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Continuation

前編の続き

前編では、『美味しんぼ』との出会いをきっかけに料理人を志し、ホテルで基礎を学び、37歳で本場フランスへ渡るまでの歩みを伺いました。その先には、シェフとしてミシュラン一つ星を獲得するまでの挑戦があり、ひとつひとつの出会いが現在の金谷シェフを形づくっていました。後編では、フランスで培った経験がどのようにLa Vallée d'Orの料理へと受け継がれているのか、そして北鎌倉という土地で表現したいフランス料理とは何か、その料理哲学や未来への想いについて、お話を伺います。

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第 4 章 フランスか、鎌倉か

─ フランスでの9年間を経て、その先についてはどのように考えていたのでしょうか。

すごく悩みました。フランスにいた頃、一つ星のシェフをやっていたこともあって、「ここでお店をやりませんか」という話をいただくことが何度かあったんです。ブルターニュやプロヴァンスなど、いくつかお話をいただいて、地中海の方では本当にお店をやろうというところまで気持ちが進んでいました。妻とも相談し、帰国するか、フランスで自分の店を持つか、本当に50:50でした。毎日のように考えていましたね。

─ そこまで悩まれた中で、最終的にはどのような答えを出されたのでしょうか。

日本に家族がいることが大きかったですね。フランスで店を出すということは、ほとんどそのまま永住するようなものです。そこから10年、15年と店を続けて、自分が60歳、70歳になった時のことまで考えました。フランスでやりたいという気持ちもありましたし、本当に迷いましたが、最終的には帰国することを選びました。

─ 日本へ戻り、自分のお店を持つことを考えた時、どのような場所を思い描いていたのでしょうか。

自分の店を持つなら、自分が好きな場所でやりたいと思っていました。鎌倉って、もう街そのものの雰囲気が出来上がっていますよね。歴史があって、その中にレストランがある。東京だったら、シャンデリアのようなものが贅沢なのかもしれません。でも僕にとっては、鎌倉の街の雰囲気そのものが、シャンデリアより贅沢なんです。

─ 鎌倉ではどのようなレストランをつくりたいと考えていましたか。

フランスには、パリだけではなく、山の中や湖のほとりなど、「こんなところにあるんだ」と思うような場所にも三つ星レストランがあります。そこには、その土地の郷土料理があって、その土地でしか採れない食材がある。それを使って、その店にしかないスペシャリテをつくり、その料理を目指してお客様が訪れるんです。地方であっても都会と同じくらいのレベルのレストランが点在していて、それぞれが独自のものを築いている。そういうフランスの地方のレストランに、すごく魅力を感じていましたので、鎌倉でもそんなふうになっていけたらと思っていました。

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第 5 章 La Vallée d'Orの料理

─ La Vallée d'Orでは、料理をどのように考えているのでしょうか。

季節感はすごく大切にしています。特に料理を考える時は、野菜から考えることが多いですね。野菜は季節によってどんどん変わっていきますし、その時期にしか出会えないものがあります。まず、その時に売られている野菜を見て、「これをどういう料理にしようかな」と考える。魚や肉にも旬はありますが、一番季節を感じやすいのは野菜だと思っています。だから、野菜を起点に料理を組み立てていくことが多いです。

─ 料理をつくる上で、最も大切にされていることは何ですか。

一番は、やっぱり美味しいことです。見た目だけが良くても、美味しくなければ駄目だと思っています。その上で、自分は日本人がフランス料理という異国の文化をやっているので、「フランス料理らしくなければいけない」という気持ちが強くあります。お皿も料理も、食べた時にフランスを感じられるものにしたい。自分でフランス料理を掲げている以上、そこは大切にしています。

─ 金谷シェフが考える「フランス料理らしさ」とは、どこにあるのでしょうか。

僕は昔から続いている古典的なフランス料理は、本当にすごいと思っています。100年、200年前、冷蔵庫も今のような調理機器もなかった時代につくられた料理が、今でも料理人にとっての教科書であり、僕たちがつくる料理のベースになっている。時代とともに姿や形が変わっても、その要素は今の料理にも残っています。そういうフランス料理の王道の部分は、これからも大切にしていきたいですね。

─ その伝統を大切にしながら、La Vallée d'Orらしさはどのように表現していきたいですか。

フランス料理らしさと、美味しさ。そこは大前提として、その上で「これはLa Vallée d'Orの料理だな」と感じてもらえるものをつくりたいと思っています。料理を見ただけでも、「ここの料理だ」と分かってもらえるようなものが理想ですね。盛り付けも最初からすべて決めているというより、食材を見たり、料理をつくったりしている中で、「こういう感じにしよう」と自然に生まれてくることが多いです。フランスで過ごした土地や、そこで見てきた料理から受けた影響も、自分の料理には出ていると思います。

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第 6 章 鎌倉から、再びフランスへ

─ これから、La Vallée d'Orをどのようなお店にしていきたいですか。

もちろん、まずはこの店をもっと発展させていきたいと思っています。フランスにいた頃から「鎌倉で店をやりたい」という気持ちがあって、今こうして鎌倉で料理ができていること自体には、すごく満足しています。鎌倉の野菜や相模湾を中心とした魚など、この土地の食材を使いながら、自分がフランスで学んできたことを料理として表現していく。それをもっと深めていきたいですね。

─ お店だけではなく、鎌倉という街について考えていることはありますか。

鎌倉を、魚や野菜を中心に食の街として盛り上げていこうという話があって、僕もそういう取り組みには参加していきたいと思っています。フランスでは、地方に素晴らしい料理人がいて、その人の料理を食べるために世界中からお客様が訪れる場所があります。一軒のレストランだけではなく、その周辺まで一緒に盛り上がっていく。鎌倉もそんな街になっていったら面白いですよね。

─ 最後に、金谷シェフが描いている夢はありますか。

フランスで一緒に働いていた親しい友人から、「いつか日仏でやりたいね」と言われたことがあって、その言葉が今もずっと心に残っています。当時はまだ自分の店すらありませんでしたが、今は日本で一店舗を持つことができました。だからこそ、その先には、いつかフランスにも自分の店を持ちたいという思いがあります。もちろん、二つの国で店を続けていくことが簡単ではないことも分かっています。実際にフランスで、複数の店を行き来しながら働くシェフたちの姿も見てきました。それでも、いつか日本とフランス、それぞれの場所に店を持ちたい。それが今、自分が描いている夢のひとつです。

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Epilogue

最後に

金谷シェフのお話を通して感じたのは、人生の節目ごとに自分の気持ちに素直に向き合いながら、選択を重ねてきた方だということでした。料理人を志したきっかけも、フランスへ渡ったことも、そして日本へ戻り北鎌倉でLa Vallée d'Orを開いたことも、自分が本当にやりたいことを選び続けた先に、今の金谷シェフがあります。フランス料理の伝統を大切にしながら、鎌倉という土地で自分にしかできない料理を追求する。そしてその先には、フランスで店を持つという夢がある。これまで歩んできた道と、これから描いていく未来。そのどちらにも、料理とフランスへの変わらない想いが流れているように感じました。

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Profile

プロフィール

La Vallée d'Or オーナーシェフ 金谷 淳 氏

高校卒業後、料理の世界へ入り、リーガロイヤルホテルをはじめ、ホテルやレストランでフランス料理の技術を磨く。37歳でフランスへ渡り、各地のレストランで研鑽を重ね、ロワール地方ではシェフとしてミシュラン一つ星を獲得。その後、サヴォワ地方でも経験を積み、約9年間フランスの料理や食文化を学ぶ。帰国後、北鎌倉にフランス料理店「La Vallée d'Or」を開業。フランス料理の伝統を大切にしながら、鎌倉の風土や季節の食材を取り入れ、この土地ならではの料理を追求している。

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