2026.7.31
#6 200年の仕事 - 後編 -
株式会社b.note | 代表取締役 新井 達夫

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第 4 章 古我邸をつくる仲間
─ 古我邸を運営するにあたり、どのような体制をとっていますか。
古我邸を運営していると、よく規模が大きく、システム化された組織であると思われることが多いんですが、実は僕らの運営はそんなに大きな会社らしいものではないんです。僕は方向性だけを決めて、あとは仲間のみんなと一緒につくっています。
─ 一緒に働く仲間をどのように迎え入れているのでしょうか。
そうですね。採用には、何よりも時間をかけています。。これまでいろいろな方法を試してきましたが、今は一次面接のあとに、一日インターンとして実際に働いていただく時間を設けています。履歴書や面接だけでは分からないことも、一緒に過ごす時間の中で、その人らしさが自然と見えてくるんです。
─ 実際に一緒に働く時間を大切にされているんですね。
もちろん一日ですべてが分かるわけではありません。でも、お互いに「一緒に働くイメージ」を持てることは、とても大切だと思っています。会社が一方的に選ぶのではなく、お互いがこの場所で働く姿を想像できるか。だからこそ、一日インターンで一緒に時間を過ごし、経歴やスキルだけではなく、その人自身と向き合うことを大切にしています。
─ 会社にとって、仲間選びを大切にしてい ることがわかります。
もちろん建物も料理も大事です。でも、それをつくるのは人ですから。僕はずっと、「来年も同じメンバーで忘年会ができたらいいな」と思いながら仕事をしています。忘年会では毎年、その話をするんです。「また来年も、みんなでここに集まろう」って。
─ 教育で意識されていることはありますか。
特別な教育プログラムがあるわけではありません。仕事を通して、一緒に学び、一緒に成長していくことが一番だと思っています。この仕事は、マニュアルだけでは身につきません。目の前のお客様が何を求めているのかを想像し、自分で考えて行動することが大切なんです。
─ 仲間とはどのような関係でいたいですか。
長く一緒に働いてくれたら、それ以上に嬉しいことはありません。もちろん、この仕事は決して楽ではありませんし、それぞれの人生があります。だから無理に引き止めることはしません。でも、一緒に過ごした時間は、働く場所が変わっても、その人の心の中で生き続けるものだと思います。
─ 新井さんにとって、理想の組織とはどのような組織ですか。
一人ではこの場所はつくれません。料理人、サービススタッフ、ウェディングプランナー、それぞれが自分の役割を果たして、一つの古我邸ができています。だから僕は、「経営者がつくる場所」というより、「みんなで育てていく場所」でありたいと思っています。その積み重ねが、お客様にとって心地よい時間につながると信じています。
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第 5 章 一人の経営
─ 基本的にお一人で経営されているとのことですが、行き詰まることはありますか。
今は好きなことをやっているだけなので、あまり行き詰まらないんです。古我邸の運営だけでなく、萩のことや、頭の中には常に「次にやってみたいこと」があります。次々と事業を大きくすることではなく、自分のペースで、つくりたいものをつくり続ける。開業した頃は、毎日のように友達へ相談していました。資金のこと、事業のこと、経営のこと。会社を立ち上げたばかりの頃は、壁にぶつかるたびに周りの人へ相談しながら前に進んでいました。
─ 一人で経営を続ける中で、一番つらかったことは何でしたか。
古我邸開業までに様々な苦難がありました。用途変更の難しさ、資金不足で調達に翻弄したことなど、たしかにつらかった。でも本当につらさは、それらではなかったんです。振り返ると、古我邸を開業するという大きなプロジェクトを終え、その後に「次にやりたいこと」がなくなってしまったことです。それまで不動産開発の仕事では、一つのプロジェクトが終わる頃には、次の計画が動き始めるのが当たり前でした。ところが、古我邸を開業したあとには、「次にやりたいこと」が何もない。その状態が、自分でも驚くほど苦しかったんです。完成した喜びよりも、「次にやりたいことがない」ということの方が、ずっとつらく感じました。
─ 今はどのような経営を心掛けていますか。
会社の方向性は僕が決めます。その中で、スタッフが『やってみたい』と思うことは、できるだけ応援したいと思っています。実際に、地域の盆踊り大会を企画しているスタッフもいます。面白そうだったら、やってみればいいし、それを僕は応援したいと思っています。
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第 6 章 これからの挑戦
─ 今後、鎌倉で挑戦していきたいことを教えてください。
一番やりたいのは、古我邸の畑を育てることです。もっと時間をかけて、もっと手間をかけて、この場所で育てた野菜をお客様に届けられるようにしたいと思っています。
─ 古我邸の中で畑があり、その恵みを提供する。とても素敵なビジョンですね。
そうですね。今も畑はありますが、もっと本格的に取り組みたいと思っています。レストランで、「地元の食材を使っています」という表現はよくありますよね。でも僕が目指したいのは、それだけではないんです。この場所で育ったものを、その日に収穫して、そのまま料理としてお客様に届ける。「今、畑で採ってきました。」そんな、"畑から始まるレストランレストラン"ができたら、本当に面白いと思っています。
─ 料理の美味しさだけでなく、古我邸ならではの体験ですね。
「鎌倉野菜」という言葉だけではなく、古我邸だからこそ生まれる食材、古我邸だからこそ表現できる料理を届けたい。それが、本来のローカルガストロノミーなんじゃないかと思っています。
─ 最後に、これからの古我邸は、どんな場所でありたいですか。
特別なことをしたいわけではないんです。この建物を大切に守りながら、この場所だからこそ味わえる時間や体験を届け続けたい。それが結果として、古我邸が愛される理由になっていたら嬉しいですね。自分たちは、その長い時間のほんの一部を預かっているだけです。だからこそ、この場所をより良い形で次の世代へつないでいくことが、自分たちの役目だと思っています。
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古我邸の畑でとれた恵みを料理へ
Epilogue
最後に
新井さんとお話をしていて感じたのは、歴史や文化、そして先人たちが築いてきた価値への深い敬意でした。過去を守るだけではなく、その価値を受け継ぎ、次の世代へより良い形でつないでいく。その姿勢は、古我邸という場所づくりだけでなく、新井さんご自身の生き方そのものなのだと感じます。「自分たちは、その長い時間のほんの一部を預かっているだけ。」その言葉には、この場所への責任と愛情が込められていました。古我邸の本当の魅力は、美しい建物や料理だけではなく、この場所に関わる人々の想いによって育まれているのだと思います。私たちLUXも、これから古我邸で紡がれていく時間と、その美しい物語を届け続けていきたいと思います。
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Profile
プロフィール
b.note 代表取締役 新井 達夫 氏
大学卒業後、藤田観光株式会社に入社。青山でゲストハウスウェディングのプロデュースに携わり、空間づくりとおもてなしの経験を積む。2009年に独立し、株式会社b.noteを設立。鎌倉・古我邸をはじめ、鎌倉の姉妹都市である山口県萩市などで、レストラン、ウェディング施設、ホテルの企画・開発・運営を手がける。歴史的建築や地域資源の価値を活かし、その土地ならではの魅力を未来へつなぐ場づくりを続けている。

