2026.10.9
#12「かっこいい」から始まった、バーテンダーという人生 - 後編 -
BAR ANDALUSIAN | オーナーバーテンダー 馬場 淳也

Continuation
前編の続き
20歳の頃、京都で初めて訪れたバーで、その所作やサービス、空間に心を動かされ、バーテンダーを志した馬場淳也氏。TIMELESS、クルベル・キャン、そしてPENTHOUSE GARDENと経験を重ねる中で、技術だけではなく、「人を喜ばせること」、そして目の前のお客様の心や気持ちに触れるサービスの大切さを学んできました。その経験を経て、鎌倉・大船に自身の店「BAR ANDALUSIAN」をオープン。後編では、馬場氏が一杯のカクテルを仕立てる上で大切にしていること、味わいだけでは完成しないカクテルの価値、そしてBAR ANDALUSIANという空間を通して届けたい「体験」について、お話を伺います。
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第 4 章 その人にとっての「ベストな一杯」を考える
─ BAR ANDALUSIANでは、カクテルをつくる上で、どのようなことを大切にしていますか。
まず味わいでいうと、もう一杯飲みたいと思っていただけるような、優しいカクテルをつくることを意識しています。ただ、お客様から注文されたものを、そのままつくって出せばいいとは思っていません。僕は、お客様からいただいたオーダーを、「いい意味で疑う」ことを大切にしています。例えば、すでにお酒が進んでいるお客様が、同じものをもう一杯飲みたいとおっしゃった時。それをそのまま提供することが、本当にその方にとって一番いい選択なのかを考えます。お酒は、飲み方によっては体調など色々なことにも影響します。だからこそ、その時のお客様の状態を見ながら、アルコールの強さを調整したり、違う一杯をご提案したりすることもあります。言われたものをつくるのではなく、「今、この人にとって何が一番いいのか」を考えて、一杯をつくるようにしています。
─ 一人ひとりのお客様に合わせるために、具体的にはどのようなことを考えていますか。
そうですね。例えば、グラス一つを選ぶ時にも、その人に本当に合っているのかを考えています。デートで来られた男性であれば、少し格好良く見えるようなグラスを選ぶこともありますし、写真を撮りたい女性であれば、その方に合った可愛らしいグラスを選ぶこともあります。同じカクテルだから、いつも同じグラスに入れるということではなく、その日のシチュエーションや、その方に本当に合っているのかを考える。カクテルそのものだけではなく、どういう状態でその一杯をお出しするのが一番いいのかまで考えることを大切にしています。
─ お客様に一杯をご提案する際は、どのようなことから考えていくのでしょうか。
曖昧なオーダーでも、全く問題ありません。例えば、その日に何を食べてきたのか、デザートは食べたのか、お腹はどれくらいいっぱいなのか。そういったことをお伺いしながら、その方に合う一杯を少しずつ絞っていきます。定番のカクテルをつくることもありますが、せっかくBAR ANDALUSIANに来ていただいたのであれば、今まで知らなかったカクテルや、新しい味わいにも出会っていただきたいと思っています。そして、僕が大切にしているのが、「なぜ、この一杯をお客様に出したのか」という理由です。ただ美味しいものを提供するだけではなく、その一杯を選んだ理由やストーリーまで含めてお伝えする。バーは、付加価値の世界だと思っています。だからこそ、その一杯にどんな意味を持たせられるのかまで考えて、お客様に届けるようにしています。
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第 5 章 美味しいだけでは、美しいカクテルとは言えない
─ 馬場さんにとって、「素晴らしいカクテル」とはどのような一杯でしょうか。
美味しいことは、もちろん大前提です。ただ、僕は味だけでカクテルが完成するとは思っていません。その一杯にどんなストーリーがあるのか、なぜこのグラスを選んだのか、なぜ今このカクテルをお出しするのか。そういったものまで重なった時に、初めて一杯の価値が生まれると思っています。正直、僕より美味しいカクテルをつくれる人は、たくさんいると思います。だからこそ、「BAR ANDALUSIANで飲みたい」と思っていただける理由を、どうつくるのか。僕にとっては、そこがすごく大切です。
─ その一杯を届けるとき、お客様がそこで過ごす時間については、どのようなことを大切にされていますか。
そうですね。カクテルの味わいやアルコール度数、グラスはもちろんですが、音楽や照明なども含めて、その時のお客様にとって一番いい状態を考えています。例えば、二人で来られたお客様の会話が少し緊張しているように感じたら、音楽のボリュームを少し上げることもあります。反対に、周りが賑やかな中で静かに過ごしたい方がいれば、照明を落としたり、音楽を変えたりすることもあります。カクテルだけを見ているのではなく、その方がこの場所でどう過ごしているのかを見る。自分たちにできることをすべて重ねながら、その人にとって一番いい時間をつくることを大切にしています。
─ そうした考え方は、BAR ANDALUSIANという空間そのものにも表れているのでしょうか。
そう思います。この店には、お酒やグラス、道具、インテリアなど、自分がいいと思うものを集めています。自分の好きなものが凝縮された空間にしたいという気持ちはあります。ただ、それだけでは「僕のおもちゃ箱」になってしまう。自分が好きなものを並べるだけではなく、それをお客様にも楽しんでいただけるものにするためには、自分自身がもっといろいろなものを見て、知って、経験していかなければいけないと思っています。行ったことのないバーへ行くこと、美味しいものを食べること、美しいものを見ること。そうやって自分自身の経験を増やしていくことも、BAR ANDALUSIANという空間をつくる上で大切にしています。


第 6 章 もっと、凝縮された空間へ
─ BAR ANDALUSIANを、これからどのような場所にしていきたいですか。
もっと、凝縮された空間にしていきたいと思っています。自分たちが「かっこいい」と思うものや、好きだと思えるものをもっと増やして、それをお店の中に落とし込んでいきたい。そのためには、僕自身もスタッフも、もっといろいろなものを見て、知って、経験していく必要があります。いいバーへ行くことも、美味しいものを食べることも、美しいものを見ることも、すべてが自分たちの感性につながっていくと思っています。そうやって経験を重ねながら、自分たちが本当にいいと思えるものを少しずつ増やして、この場所に凝縮していきたいです。
─ 馬場さん自身は、これからどのようなバーテンダーでありたいですか。
魅力的な人間でありたいと思っています。バーという仕事は、お客様と10年、20年と長くお付き合いしていける仕事だと思うんです。だからこそ、カクテルをつくる技術だけではなく、「この人に会いたい」と思ってもらえるような人間でいたい。僕は、できる限りずっとカウンターに立ち続けたいと思っています。お店に立っていない時間も、何かを見たり、勉強したり、実際に足を運んで経験したりする。その積み重ねが、自分自身の魅力にも、BAR ANDALUSIANの魅力にもつながっていくと思っています。
─ 最後に、10月11日に建長寺で開催する「EXPERONOMY -第一章 残菊宴-」では、カクテルペアリングを担当していただきます。今回のイベントについて、どのようなことを楽しみにされていますか。
すごく楽しみにしています。これまでお店の中でペアリングをすることはありましたが、今回のような形でカクテルペアリングをする経験は、僕自身ほとんどありません。BAR ANDALUSIANでも、カクテルの味だけではなく、その一杯にどんなストーリーを持たせるのか、どんな体験をしていただけるのかを大切にしています。今回は建長寺という特別な場所で、料理に合わせて一杯をつくる。その中で、自分たちがどんなストーリーをつくり、どんな体験を届けられるのか、僕自身もすごく楽しみにしています。そして、ここで得た経験をBAR ANDALUSIANにも持ち帰りたいと思っています。
─ 料理に合わせて一杯をつくる「カクテルペアリング」だからこそ、できることは何だと思いますか。
カクテルは、液体にできるものであれば、さまざまな素材を使うことができます。さらに、その場でアルコール 度数を調整したり、量を変えたりすることもできる。料理やお客様の状態に合わせて、その場で細かく調整できることは、バーテンダーの強みだと思っています。そして、そこにストーリーを重ねられることも、カクテルの魅力です。美味しいものをつくって、何も言わずにお出しすることは大前提です。でも、なぜこの料理にこの一杯を合わせたのか。どんな想いでつくったのか。その背景までお伝えすることで、一杯の価値はさらに高まり、一つの「体験」になると思っています。今回の建長寺でも、料理とカクテルを合わせるだけではなく、バーテンダーだからこそつくれるストーリーや体験を楽しんでいただきたいです。
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Epilogue
最後に
「かっこいい」という憧れから始まった、馬場氏のバーテンダーとしての歩み。TIMELESS、クルベル・キャン、PENTHOUSE GARDENと経験を重ねる中で磨いてきたのは、カクテルをつくる技術だけではなく、目の前のお客様を見つめ、その人にとっての一杯、その人にとっての時間を考える姿勢でした。グラス、味わい、アルコール度数、音楽、照明、そして一杯に込めるストーリー。そのすべてを重ねながら、「BAR ANDALUSIANで飲みたい」と思ってもらえる理由をつくり続ける。そしてこれからも、自らさまざまな経験に触れ、「かっこいい」と思えるものを増やしながら、BAR ANDALUSIANという空間へ凝縮していく。20歳の頃、一軒のバーで感じた「かっこいい」という感動は、今、馬場氏自身がカウンターの向こう側から届ける「体験」へとつながっています。
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Profile
プロフィール
BAR ANDALUSIAN
オーナーバーテンダー 馬場 淳也 氏
23歳でバーテンダーの道へ。横浜「TIMELESS」、鎌倉「クルベル・キャン」、銀座「PENTHOUSE GARDEN」で経験を重ねる。2013年「横濱インターナショナルカクテルコンペティション」、2016年「P.B.O.主催 全国バーテンダーズ・コンペティション MVB」で優勝。独立後、鎌倉・大船に「BAR ANDALUSIAN」を開業。一人ひとりに合わせたカクテルと、空間やサービス、ストーリーまで含めた「体験」を大切にしている。

