#4 室礼という日本の美しさを、100年先へ
花屋 務 | 店主 橋本 冠斗

01 プロフィール
「花と手仕事で伝統を再構築する」というコンセプトを軸に、日本文化や技術、四季折々の草花と掛け合わせた、室礼(しつらい)作品を中心に展開する「花屋 務」の代表 橋本 冠斗さん。美術大学へ通いながらオンラインショップを立ち上げ、2025年10月に念願の実店舗を北鎌倉にてオープン。ブランド運営を行う傍ら、ワークショップや、料亭・ホテル・商業施設への花生けも行っています。数々のアワードで作品が評価され、様々な展示会に出品する橋本さんの作品は、多くのファンを魅了しています。失われつつある日本の“室礼文化”と“手仕事”に向き合いながら、アーティストと経営者の2つの顔を持つ橋本さんが抱く想いや、ここに至るまでの道のりをぜひお楽しみください。

02 原点を辿る
すでに芽生えていた、花への愛情
幼少期から花が好きで、自分で育てることに夢中になっていました。道端の雑草を抜いて家に持ち帰ったり、何の変哲もないような道の草を何鉢も栽培したり。何かのきっかけではなく、気づいた時には、すでに植物への愛が芽生えていました。さらに植物への関心が深まり、植物を通した空間づくりに興味を持ち、農業高校の造園科に進学しました。美術大学に進学する際は、小学生の頃に種から育てたもみじの盆栽を大学受験の作品として持ち込み、高い評価をいただきました。美術大学では建築を学び、現在制作している室礼の土台となっています。もの心がついた頃から、今も変わらず植物が大好き。植物と自分は運命共同体のように感じています。

03 自らの使命
守りたい日本文化
室礼(しつらい)とは、平安時代の宮中文化から生まれた「しつらえる」という行為から発展した、日本の大切な文化です。五節句や年中行事に合わせて、部屋の一角に飾り、お供えを行います。それは単なる“季節の飾り”ではなく、空間を整え、神聖な存在に対する祈りや感謝、上位の人を迎えるための敬意として受け継がれてきたものです。例えば、鯉のぼりもその一つ。本来は“厄を移し、祈るためのもの”。しかし現在では、本来の意味を理解されないまま、鯉のぼりや雛人形を飾られていることが多いと感じています。もちろん、それらを飾ることはとても素晴らしいことですが、本来の意味が失われれば、正しい文化が継承されにくくなる。それは、“日本人としてのアイデンティティが失われる”ことだと思っています。そして今、その文化が失われつつあります。だから私は、商品とともに、その背景にある“意味”まで届けています。
04 時代の歩き方
長く続くものには理由がある
私の想いは、伝統や文化を、純度を保ったまま届けることです。しかし当然、平安時代と比べて環境や素材は大きく変わっており、現代の生活様式には馴染みにくい部分もあります。例えば、雛人形の原型は、紙を切り取った“かたし”から始まり、布となり、藁となり、やがて立体の人形へと変化していきました。このように、常に伝統や素材、技術は変化していくもの。むしろ変化していかなければなりません。今の私がやらなくてはいけないことは、“本質を守りながら、今の暮らしに溶け込む”作品をつくることです。そして、「花屋 務」というブランドを、100年後、300年後も残り続ける老舗へと育てていきたい。経営やビジネスを体系的に学んできたわけではありません。どちらかといえば、直感で動くタイプ。でも、長く続く老舗や、たった一人のデザイナーから生まれたブランドを日々観察しながら、日本の価値ある資産として、「花屋 務」が残り続けられるよう努めていきます。

05 最後に
今回のインタビューを通して、橋本さんの言葉の力強さを感じました。その裏には、単に作品を届けることにとどまらず、“日本人のアイデンティティを失わせたくない”という根源的な想いがあるからです。そして、植物へのまっすぐな愛。単に植物への知識があるだけでなく、植物との深い心の繋がりを感じました。そんな橋本さんが生み出す作品は、どこか可愛らしく、思わず愛でたくなるものばかり。一つ一つに生命を感じさせる作品は、きっと、空間を明るく豊かなものにしてくれます。空間を整え、自然に感謝する。室礼という、古来から日本人が大切にしてきた文化に、ぜひ触れてみてください。






店舗情報
《住所》
神奈川県鎌倉市山ノ内170
《最寄駅》
JR北鎌倉駅 徒歩8分
《営業時間》
11:00〜17:00
《定休日》
月曜日、火曜日、水曜日、木曜日
